年頭にあたり、「初めに言があった」というフレーズを考えています。英語のアルファベット(alphabet)はギリシャ語から生まれています。ギリシャ語の最初はアルファ(α-alpa)、そしてベータ(β-beta)と続き、最後がオメガ(Ω-omega)です。聖書のヨハネの黙示録1:7(Revelation)に「今いまし、昔いまし、後に来られる方、万物の支配者がこう言われる。わたしはアルファであり、オメガである。」という有名な聖句があります。
冒頭に引用したのはヨハネによる福音書1:1にでてきます。「初めに言(ロゴス)があった。言は神とともにあり、言は神であった。」(口語訳聖書)という記述です。この箇所は、キリストについて述べたものと講解され、三位一体(Trinity)という教義の成立に関わっています。三位一体説によれば、「ロゴス」とは「父」の言である「子」、つまりイエスを顕すとされます。ロゴスとはキリストの別称なのです。
他方で、思考や理論の論理という「ロゴスの学」、すなわち論理学があります。ギリシャの哲学者アリストテレス(Aristotle)によって綜合された古代のロゴスの学といわれます。ラテン語ではロゴスは「logica」と呼ばれます。論理学は、思考のつながりや推理の仕方、論証の仕方の形式とか法則を極めようとする学問です。弁証法などの理論につながる学問です。論理学は中世においては神学の基礎科目の一つとされ、神学校では幾何学などともに教えられたという記録があります。
アリストテレスは高校の教科書にもでてきます。彼は、人間の本性は「知を愛する」ことだと主張しました。この有りようをギリシャ語ではフィロソフィア(Philosophia)と呼ばれています。フィロ(philo)は「愛する」、ソフィア(sophia)は「知」を意味します。やがて日本ではこの言葉が「哲学」(philosophy)と訳されました。物理学(physics)という言葉も哲学から派生しています。
私たちが使っている英語の単語には、古代ギリシャ語を語源とするものが沢山あります。Logicに関する単語ですが、Psychologyなどに見られる「logy」は英語の大事な接尾辞の一つとなっています。この接尾辞に出会うと、単語の意味が類推できます。「〜学」、「〜説」、「〜論」、「〜話」、「〜科学」などを意味するからです。たとえば 論理(logic)はもとより、 科学技術(technology)、イデオロギー(ideology)、生理学(physiology)、生物学(biology)、腫瘍学(oncology)、そして蛇足ながら類義語の無用な反復(tautology)など枚挙にいとまがありません。ついでながらギリシャ語の「cracy」を接尾辞とする単語には民主主義(democracy)、貴族体制(aristocracy)などもあります。
普段、「論理的に話したり書いたりする」ということをよく言います。三段論法、帰納法と演繹法、仮説検証など私たちが意識しないでも、問題解決の方法として取り入れています。説明や文脈を明確にし結論に導くことです。論理と思弁を重んじることにより、「語られる力ある言葉」にする知的作業といえます。このように論理学は、人間の思考や表現などあらゆる分野において重要な役割を果たしています。
新しい一年も、ロゴスの持つ力を頂戴しながら本欄で書き綴っていきたいです。