Last Updated on 2025年3月19日 by 成田滋
合衆国東海岸、ニューイングランド(New England)地方の政治、経済、文化、観光の中心地がマサチューセッツ州(Massachusetts)です。その中心都市はボストン(Boston)です。ボストン周辺には、メイフラワー号(Mayflower II)がやってきたプリマス(Plymouth)、独立戦争発端の街レキシントン(Lexington)、捕鯨船に助けられたジョン万次郎ゆかりのフェアへブン(New Heaven)、19世紀のアメリカ文学界を代表する作家の一人、ヘンリー・ソーロー(Henry Thoreau))が暮らしたコンコード(Concord)、夏の避暑地ケープコッド(Cape Cod)など興味深い歴史に彩られた所が点在しています。
マサチューセッツ州と北海道の関係といえば、1876年に設立された札幌農学校の初代教頭になったウィリアム・クラーク(William Clark)を思い起こします。彼はマサチューセッツ農科大学(Massachusetts Agriculture College)の学長でありました。1863年にボストンの西約90マイルの所にあるアムハースト(Amherst)にて創立された大学です。今は、はマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)の旗艦キャンパスとなっています。マサチューセッツ大学はアマースト校を含む5つの大学からなる州立大学システムとなっています。
マサチューセッツ州内には121の高等教育機関があります。研究開発型大学の代表としてボストンの郊外ケンブリッジ(Cambridge)にあるハーヴァード大学(University of Harvard)とマサチューセッツ工科大学(MIT)があります。その他USニューズ &ワールド・レポートのランキングで常に40位以内にある総合大学として、タフツ大学(University of Tafts)、ボストンカレッジ(Boston College)、ユダヤ系のブランダイス大学(Brandeis University)があります。
ハーヴァード大学に関するエピソードです。1961年の夏にハーヴァード大学から50名位の男声合唱団が札幌にやってきました。全員学部生です。1858年に創立されたアメリカで最も古い男声合唱団です。そのとき、クラーク会館において私も属していた北大合唱団がジョイントで歌う機会に浴しました。合唱団の指揮者はエリオット・フォーブス(Elliott Forbs)という人でした。たった一回の練習で本番を迎えました。両隣で歌った学生の声量が豊かだったのに驚きました。演奏会後、私は団員に話しかけることができませんでした。英会話力の不足でした。これが私の語学勉強を促す大きな転機となりました。後にハーヴァード大学に長男を訪ねる機会がありました。彼はウィスコンシン大学University of Wisconsin)から宇宙素粒子の研究で学位を得た後、ハーヴァード大学でポスドクとしてNASAからの研究費で4年間研究に従事しました。
ハーヴァード大学男声合唱団と一緒に歌った曲名は黒人霊歌の「This Old Hammer Killed John Henry」といいました。曲の歌詞ですが、黒人奴隷ジョン・ヘンリー(John Henry)は、ウエスト・ヴァージニア州(West Virginia)でハンマーを古いトンネルを掘削しながら、「このハンマーは俺を殺すのだ、主よ!」と叫ぶのです。その歌詞の一部を紹介してみます。
This old hammer killed John Henry
But it won’t kill me, Lord
No, it won’t kill me
When John Henry was a baby on his mama’s knee
He picked up a hammer and steel
He said “This hammer’s gonna be the death of me, Lord, Lord
This hammer’s gonna be the death of me”
私がマサチューセッツ州で強調したいのが、単科大学であるリベラル・アーツ(Liberal Arts)教育機関—単科大学のことです。リベラル・アーツ・カレッジが多いのが合衆国の大学の大きな特徴の一つです。 古典、哲学、文法、修辞学などの一般教養とか基礎知識を身につけ、総合大学へ進むのです。リベラル・アーツ・カレッジに入学するのも容易ではありません。学費も高いのです。
マサチューセッツ州には有名な単科大学があります。ウィリアムズ大学(Williams College)、ウェルズリー大学(Wellesley College)、スミス大学(Smith College)、ホーリークロス大学(College of Holy Cross)、マウントホリヨーク大学(Mount Holyoke College)、アムハースト大学(Amherst College)があります。大学ランキングで、研究開発型大学40傑に5校(12.5%)、リベラル・アーツ・カレッジ40傑に6校(15%)が入っているのです。マサチューセッツ州の人口は644万です。国内人口の2%に満たない州で、こうした大学の数と質は驚異的なことです。
アムハースト大学(Amherst College)を長男家族とで訪ねました。長男はウースターにあるイエズス会経営の単科大学、ホーリークロス大学で物理学を教えています。長男の家は、マサチューセッツ州西部にあるプリンストン(Princeton)という小さな街にあります。ここから車で西に一時間くらいのところにアマハースト校があります。ところで、マサチューセッツ州西部には、植民地時代に交易で栄えたスプリングフィールド郡(Spring Field)とか四季折々の自然が魅力のバークシャー郡(Berkshire County)などがあります。世界中の音楽ファンが憧れる「タングルウッド音楽祭」(Tanglewood Music Festival)が開催される会場もバークシャーにあります。小澤征爾が指揮したボストン交響楽団の演奏は、タングルウッド音楽祭の主要な催し物でした。
クラークは、札幌農学校初代教頭に就任するまでマサチューセッツ農科大学の第3代学長でありました。農学校に赴任することになった詳しい経緯は省きますが、アマハースト校で教えていた頃、学生の中に同大学初の日本人留学生、新島襄がいたことです。明治政府は新島襄に働きかけてクラークの来日を要請したといわれます。新島襄は後に同志社大学を創設します。アマハースト校のホームページにリベラル・アーツ教育を次のように謳っています。
A liberal-arts education develops an individual’s potential for understanding possibilities, perceiving consequences, creating novel connections and making life-altering choices. It fosters innovative and critical thinking as well as strong writing and speaking skills. The liberal arts prepare students for many possible careers, meaningful lives and service to society.
「リベラル アーツ教育は、可能性を理解し、結果を察知し、新しいつながりを作り、人生を変える選択をする個人の潜在能力を養います。また、革新的で批判的な思考、そして優れた文章力や話し方を養います。リベラル アーツは、学生をさまざまな職業、有意義な人生、そして社会への奉仕に備えさせます。」 (Google 翻訳)
ハーヴァード大学の前身は、清教徒派の牧師であったジョン・ハーヴァード(John Harvard)が寄贈してできた最古の大学で、創立が1636年のハーバード・カレッジ(Harvard Collge)です。今もハーヴァード大学には神学部がありリベラル・アーツ教育の伝統を引き継いでいます。リベラル・アーツ教育は合衆国の高等教育機関の基礎となっていることを覚えたいものです。札幌農学校もリベラル・アーツ教育の先駆的な存在です。キリスト教的全人教育によって、佐藤昌介、新渡戸稲造、内村鑑三、宮部金吾らを輩出していきます。そして私もその後塵を拝しています。(2021年8月13日)