「十二人の怒れる男」

Last Updated on 2025年2月1日 by 成田滋

アメリカの心理学者ソロモン・アッシュ(Solomon Asch)が行った実験です。一人の被験者が実験室に呼ばれます。そこに他の被験者を装った六人の仲間、サクラがいます。呼ばれた被験者はそのことを知りません。そして二枚の絵に描かれている線のうちから、見比べて同じ線を選ぶというものです。

六人の仲間は示し合わせたように異なる線を選びます。被験者はその線は違うと思うのですが、七人目の被験者は、他の者が選んだ線をしぶしぶ選ぶという結果となります。その理由は二つあります。第一は、集団が有する規範のような影響 (normative influence)を受けたこと、第二は、集団のほうがより情報を得ていたという影響(informational influence)を受けたことだと結論づけます。

同調実験に似た例が映画にも登場します。「十二人の怒れる男 (12 Angry Men)」というアメリカ映画です。父親殺しの罪に問われた少年の裁判が行われます。法廷には陪審員がいて審議します。
法廷に提出された証拠や証言は被告人である少年に圧倒的に不利なものであり、陪審員の大半は少年の有罪を確信しています。全陪審員一致で有罪になると思われたところ、ただ一人、八番目の陪審員だけが少年の無罪を主張するのです。そして、他の陪審員たちに、固定観念に囚われずに証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを要求します。

この陪審員の熱意と理路整然とした推理によって、当初は少年の有罪を信じきっていた陪審員たちの心にも徐々にある変化があらわれ、一人ずつ無罪に傾いて最後は全員無罪という評決をするのです。アメリカの陪審制度の長所と短所を描いた名作といわれます。

「十二人の怒れる男」」への1件のフィードバック

  1. 「十二人の怒れる男 (12 Angry Men)」という映画は、一人の陪審員のふとした疑問が、やがて他の陪審員の心証を変えていく過程を描きます。映画の舞台は、陪審員が討議する一室だけです。「ちょっとおかしいな」とか「このように解釈できないか」といったような提案が人の考えを変えていくのです。ただ、多くの人は自分の信念や生き方を変えようとしないものです。選挙行動もそうです。自分が支持する候補者を変えるようなことをなかなかしません。

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