Last Updated on 2025年4月1日 by 成田滋
日本経済新聞(日経) が、2017年12月4日に日本の科学力失速の元凶は国立大学ではないかという論陣を張りました。約3,000人もの研究者を抱える理化学研究所(理研)のことも話題となっています。「科学者の楽園、今は昔」というヘッドラインです。元凶を招いたのは、国の国立大学や理研への関与が強く研究の活力をそいでいるという論調です。
理研は、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、数理・情報科学、計算科学、生物学、医科学、脳神経科学、ゲノム解析、量子コンピュータ、バイオリソース、放射光科学など、広い分野で研究を進めています。理研は、1917年に財団法人として創設されました。戦後、株式会社科学研究所、特殊法人時代を経て、2003年10月に文部科学省所轄の独立行政法人理化学研究所として再発足し、2015年4月には国立研究開発法人理化学研究所となります。
理研はかつて成果を事業化する科学研究所を設立し、理研コンツェルンを形成しました。保有する特許からの収入も多く、研究費の75%を稼いだこともあるといわれます。他方で政府の方針にそぐわない研究は手がけにくく、個人の発想に基づく研究は減り、かつての研究の自由を手放したといわれます。社会の役に立つ研究が求められ、5年程度で成果を生み出すテーマに流れやすくなったようです。
近年は国主導の研究が中心で国の科学技術予算はほぼ横ばい。各法人の運営交付金もふえていません。「特定」に指定されているにも関わらず融合措置(フュージョン)はなく、国の研究への関与は一段と強まっています。世界の研究の潮流といえば高度な観測施設や膨大なデータを活用し分野を超えた研究者が協力して社会の課題解決に挑むはずですが、かつての面影はありません。研究組織所属職員は2,770人で81%、そのうち任期制職員は1,839人で66%となっています。大半の研究者は1年契約であり、1年ごとに厳しい研究評価をくだされます。任期制の職員に退職金はありません。こうした不安定な雇用が研究の推進を妨げているともいわれます。
法人化とは、国が財政的に責任を持ちながら、自主・自立という大学の特性を活かした運営ができる新しいスタイルといわれますが、法人化そのものは今も疑問視されています。2004年の国立大学法人化以降、論文数の世界シェアの急降下が問題視されています。 世界2大科学誌のひとつ英ネイチャー誌(Nature) が2017年3月の特集で、発表論文数などをもとに「日本の科学力は失速」と明確に指摘しています。諸外国が研究開発への支出を大幅に増やす間に政府は大学補助金を削減したと指摘しています。特集では、各国が研究開発投資を増やす中で日本は2001年以降は横ばいで、国立大学への交付金を削減したため若い研究者の研究意欲が減退したというのです。
2017年12月4日付の日経によれば、日本総合研究所の上席主任研究員は、「国立大学の研究力低下の原因は運営費交付金の減額ではなく、マネジメント改革の遅れや客観的な評価の制度がないことだ」と指摘し、国立大学法人制度の抜本的改革が必要だと報道されています。国立大学関係者からは低迷の要因を国の運営費交付金抑制に求める声がしばしば聞かれています。国から国立大学法人への支出の推移をみると、確かに運営費交付金は法人化以降ほぼ1兆2千億円程度で横ばいとなっています。他方、科学研究費補助金(科研費)等の競争的資金は倍増し、実際には1千億円程度増えています。
学術論文の国際比較では、論文数や被引用数、国際共著論文の割合などが指標として用いられます。国単位での科学研究力を把握する場合は、「論文の生産への関与度」、つまり論文を生み出すプロセスにどれだけ関与したかと「論文の生産への貢献度」、すなわち論文1件に対しどれだけ貢献をしたかが問われます。科学研究力では、量的観点と質的観点が求められます。量的観点として論文数を、質的観点として他の論文から引用される回数の多い論文数(Top10%補正論文数、Top1%補正論文数)が用いられます。

日本の大学の場合、2000年前後にトップ10%、トップ1%の論文数の国際シェアがピークに達し、その後は低下の一途を辿っています。直近データである2014年の値はトップ10%で2.2%、トップ1%は1.6%とピーク時の半分程度まで落ちています。学術論文の国際シェア低下という紛れもない数値は、研究の低下という実態を反映しているといえます。「大学改革、大学改革とずっと叫んでいるが日本の大学はさっぱり改革していないのが実態だ」ともいわれます。多くの大学人は政府主導の改革に懐疑的ながら、一体自らで改革ができるのかという声もあります。
