その五 「誤差とはなにか」

Last Updated on 2025年2月15日 by 成田滋

人間を扱う実験では雑多な要因が混入してくることは避けられない。しかし、それをある程度制御することはできる。例えば、観察帯における安定した行動を確認する(業界用語でいうベースライン)、実験者を複数にしてみる、実験室だけでなく家庭でも行ってみる、実験の時間帯を変えてみる、こうした実験の条件を無作為化することによって、偶然のバラツキである誤差を分散させるのである。ここがミソである。

 子どもの身体的な成長は大人に比べて早い。つまり成長とか成熟は誤差の大きな要因とも考えられる。身体的にも精神的にも成長するのであるから、実験による効果とは一概にいえないこともある。特に実験などが長引くと、その間に起きる家族や友達、教師とのエピソード、身体的な成熟という要因は無視できない事象である。このような要因から生まれる子どもの行動上の変化を見誤って、実験が功を奏したとか、行動が実験によって変容した等と喜んではならないのである。

 同じ方法を用いて実験する時などは、温度、湿度、成熟などのいわゆる系統誤差に注意を向ける必要がある。子どもの健康や気分も誤差として反映してくる。しかして、系統誤差の値は常に一定であるとは限らない。系統誤差はその原因と傾向がわかっている場合には測定値から除くことも大事だ。

 もう一つ、測定ごとにばらつくものに偶然誤差というのがある。例としては、午前中と昼食後の実験結果はばらつくことが予想される。偶然誤差の多くは測定方法によって規定されるのであるから、ランダムに繰り返し実験を行い、十分に多くの回数によって特定の分布を得ることができる。我々が平均値とか最頻値を使うのはそのためなのである。

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