都内にお住まいのM.N.氏から、次のタイトルの手記を掲載させていただく許諾をいただきました。保護者の高齢化を考え、家族の支援から地域での支援への移行を望み、活動する姿が綴られています。日本の教育や福祉の現場にサービスの充実を強く期待しておられます。以下、五つの話題を順に取り上げます。
I.誰のためにサービスがあるのか –家族のごく普通の地域での生活のために–
II.最初に受けたサービス –米国でのサービス–
III.帰国後のサービスの現状 –米国での経験を生かして–
IV.サービスを自ら選択する時代 –親が必要とすること–
V.親がより良い選択を行うために –今後の課題–
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I.誰のためにサービスがあるのか –家族のごく普通の地域での生活のために–
1. 家族にとってのサービス
我が家には、大学一年生、都立養護学校高等部2年生、国立大学附属養護学校高等部1年生の三人の息子がいます。次男、三男は知的な遅れをともなう自閉症です。兄弟でも障害の内容は非常に異なり、各々の生活上のニーズは決して同じではありません。教育的なニーズが違うために、息子たちは別々の学校に通学しています。次男は、言語による理解が多少できるので、大きい集団での行動が可能です。一方、三男は表出言語が全くなく、言語による理解は限られた場面でしかできないので、小さい集団のほうが本人にとって適応しやすいのです。このような障害特性の違いを考えると、高等部卒業後の進路についても違った形の就労形態が予想されます。
加えて,地域で生活する上での支援の在り方も、次男と三男とでは同じ形をとることはないと思います。例えば、三男は、安全面から外出時には必ず付き添いが必要です。今後、ガイドヘルパーのサービスを積極的利用できればと思います。次男は早い時期にグループホームなどでの生活を始められたらと考えています。
しかし、身辺自立がまだ不完全な三男はそのための準備として、ショートステーなどのサービスを利用して、将来の家からの自立に向けた準備をしなくてはなりません。このように、発達障害のある子どもとその家族が医療・教育・福祉のサービスを必要とするのは、子どもの障害とケアの方法を理解し、彼らの発達を保障し、家族としてごく当たり前の地域生活を送るためなのです。
2. 医療の場、教育の場、福祉の場でのサービス
親が子どもに発達障害があると分かった時から、医療の場、教育の場、福祉の場で様々な専門家と出会い,子どもと家族が必要とするサービスを選択し、受けています。まず、医療の場をあげてみましょう。子どもの発達が普通とは違うと感じた時、やはり最初に相談するのは小児科の医師です。しかし、自閉症の障害の診断は,水疱瘡の診断のように簡単ではありません。最初から、その障害について詳しい医師に巡り合えればよいのですが、現実にはそうではありません。今でも息子たちは自閉症を専門とする精神科の医師と臨床心理士の定期診断を受けています。やはり、息子たちの身体的そして精神的な発達を把握しておくことはとても大切ですし、親としても安心できます。
次に教育の場を考えてみましょう。コミュニケーションに障害がある息子たちは、言語を中心とした集団での学習が困難です。彼らの発達にあった働きかけが可能な教育の場を捜すことは難しい課題です。小学校、中学校、高校を選択する時は大変悩みましたが,息子たちがお世話になっている学校関係者と医療関係者の意見を参考にしながら、息子たちにとり適切な教育の場を捜しました。
福祉の場でのサービスでは、公的なホームヘルプなどのサービスがありますが、最初はどのような種類のサービスがあり、どのようにしたら受けられるのかについて理解することは難しいものでした。また、自閉症という障害の特徴から第三者に預けにくい面があり、現実にはなかなか適切なサービスがないのが現状です。
このように、残念ながら医療・教育・福祉のサービスはまだ縦割りになっている場合が多く、サービスを受ける当事者としては、非常に不都合な面があります。障害のある子どもとその家族の生活をトータルに支える必要性と、各々の分野のサービス内容が重なり合うことを考えたならば、この三分野でのより良い連携が求められています。
縦割り行政は、保護者と子供を苦しめています。医療・教育・福祉機関を訪ねると同じ質問を受け、同じ回答をするというこの現実は情報の共有ができない機関間の疾病です。