心理学のややこしさ その三十三 道徳性の発達とローレンス・コールバーグ

道徳性の発達を研究したローレンス・コールバーグ(Lawrence Kohlberg) は、ニューヨークでユダヤ系ドイツ人の商家に生まれます。高校を卒業後、パレスチナ (Palestine)でハガナ(Haganah)という軍事予備組織の密輸船に乗り込み、イギリスの封鎖を破りパレスチナに移住しようとするジプシー系(Romani)ユダヤ人のために働きます。イギリス軍に捉えられキプロス島(Cyprus)の収容に入れられるのですが、囚人仲間と脱走しイスラエルの独立運動に参加します。1948年のイスラエル独立後は、非暴力的な活動に参加しキブツ (kibbutz) で生活します。そしてアメリカに移住します。

シカゴ大学 (University of Chicago) で学びたった一年で卒業します。コールバーグは博士論文の中で、「道徳性の発達と段階 (Kohlberg’s stages of moral development)」を提起します。博士号を取得後はエール大学 (Yale University) やハーヴァード大学(Harvard University) で教えます。

道徳性の発達研究では10歳から16歳までの72人の少年を対象に実験します。実験では二つのジレンマを被験者に提示します。二つの選択肢のうちいずれかを選ぶ事を求める課題です。どちらを選んでも完全な満足を得られない子供の反応を記録するのです。例えば、病気の母に薬が必要なので金を盗んで薬を買うことは許されるか許されないか、という問いです。

少年の中から58人を継続的に調査し、3年ごとに20年間にわたりテストをおこない年齢とともに彼らの道徳的傾向がどう変わるかを観察します。彼らの答えをもとに道徳性発達を前因習的(preconventional)、因習的(conventional)、脱因習的(postconventional)という道徳的推論の三つのレベルに分類し、それを六段階に分けます。

第一の道徳的推論の前因習的レベルとは、人生の最初の9年間を通じて発展します。規則を固定的で絶対と見なすレベルです。このレベルは次の二つです。
1 服従と懲罰の段階
2 どんな報酬がもたらされるかという手段的相対主義への志向

第二の道徳的推論の因習的レベルは思春期の特徴にあるとします。行動の帰結以上に行動の背後にある意図を考慮するレベルです。
3 人間関係のおける協調的志向
4 法と秩序の段階
「よいこと」を権威の尊重や法への服従と同一視し、これによって社会は維持されると考えます。

第三の道徳的推論の脱因習的レベルでは、権威を尊重するか否定するか、個人の権利こそが法であるという認識することです。
5 社会的契約と個人の権利
さらに規則に従うことよりも人間の命は遙かに尊いものであることに気づく段階です。
6 普遍的倫理原理の段階
私たち自身の良心が最終的な判断となる段階で私たち自身が等しい権利を確約し、万人を尊重することとされます。そして普遍的原理の名のもとに市民的不服従の大切さを理解する段階です。

「心理学のややこしさ」のシリーズは今回で一応終わりとします。