「情動とは本質的に無意識過程である」と主張したのはオランダ(Netherland)の心理学者ニコ・フリーダ(Nico Frijda)です。一体どのような意味でしょうか。
フリーダはアムステルダム(Amsterdam)生まれで敬虔なユダヤ教徒の家で育ちます。第二次大戦中は、ナチスの迫害を恐れ市内で逼塞した生活をおくります。アンネ・フランク(Anne Frank)と同じような境遇だったようです。
戦後は大学で心理学を学び、やがて「情動の目的はなにか」、「情動は私たちが成長していく上でどんな助けとなるか」といったことを研究テーマとします。1986年に「情動とは」(The Emotions)という著作を発表します。さらに「情動の法則」(The Laws of Emotions)という本で情動の実質と役割を論じ、情動 (emotion)や感情(feeling) は人によって異なる純粋に主観的なものであると考えます。
フリーダは、情動とは生物学的過程と認知的過程の交点に位置し、怖れのような情動は生物学的に内在的なもので、生得的なものと規定します。こうした情動は他の動物とも共有しています。特に顔の表情の研究からこうした知見を得ます。顔の表情というのは行動に「付帯する現象(Epiphenomena)」でしかないというのです。怖れや驚き以外の情動、例えば共感とか憐れみとかは人間の中で認知や思考といった反応であると考えます。
他の学者、例えばアントニオ・ダマシオ(Antonio Damasio)らの神経生理学者は、「情動と定義が似ている感情は、高次の機能である」といった異なる見解を主張しています。「感情は生理要素の認知からくる」と主張する学者もいます。「人は周囲の環境によっては自分の感情ですら勘違いしてしまう」という説もあるように、現在でも科学では明確な答えが出ていないのが情動とか感情です。