日本政府が発行する債券は「日本国債」と呼ばれます。これが国債です。通常国債は銀行で売買されます。日本の場合は日本国内での個人向け売買や金融機関が運用を目的に購入するのが主流です。他国の国債は国際間で売買されることが多く、日本も他国の国債を大量に保有しています。特にドル建の国債を多額に所有しています。国債を大量に持っているとその国と外交交渉するときに有利ですし、貿易などでのドル建ての決済に必要な資金となります。円高の時に購入したドルを円安になったからといって全部売却するのはドル建ての決済で困るので、おいそれと売買できないのです。外国債はその国がデフォルトすると回収できなくなってしまうというデメリットはありますが、ドルやユーロの場合は強固な通貨ですから債務不履行、すなわちデフォルトの心配はほとんどありません。
国債は国の借金と言いましたが、自国で国債を売買している場合にはデフォルトは起きません。外国に国債を買ってもらっている場合は、返済できないと国際問題になります。ギリシャやスペインは国債を外国に引き受けてもらっているため、自国の通貨で返済できないので困ったのです。かつて、国債は用紙に券面を印刷して発券されていましたが、2003年1月から始まった「振替決済制度」によりペーパーレス化が進みました。この制度では国債を紙で発行しないことや売却や購入などの取引内容が口座情報に記録されることが法的に明確にされました。
財務省のサイトには興味ある記述があります。それは「国民1人当たり1000万円の借金」であるというフレーズです。この借金を孫の代までにも背負わせてよいのか、という言葉です。ここで肝心なことは、「国の借金」は「国民の借金」ではなくて日本政府の借金なのです。この政府の借金をあたかも国民がこれから税金を支払って返さなければならないようなフレーズになっているのです。これは大きな間違いで、決して国民が返済したり、負担したりするものではありません。財務省はこのようなフレーズを使って、借金は良くない、通貨をむやみに発行してはいけないのだというのです。「国民1人当たり1000万円の借金」というのは、「借金額を国の人口で割ってみただけの数字」なのです。国債は借換債という国債で返却されます。国民の税金で償還するのではありません。
ここで間違ってはいけないのは、政府の借金は家計の借金とは全く異なるということです。家計では、借金は自分でいつか返さなければなりません。自分で紙幣を刷ることは許されていないの反して、政府には子会社である日本銀行には貨幣発行という能力があるのです。この通貨発行権があるため、借金を期限内に必ず返済することができるのです。ですから国の借金と呼ばれる政府債務は大変でも何でもなく、日本の財政破綻といった可能性は全くないのです。
繰り返しますが政府・日銀には日本円の政府の債務はほぼすべて円建てなので、債務不履行に陥ることはありません。海外で起こるデフォルトの話は、デフォルトした国は、外貨を持たないために支払いができない状態なのです。適正な量の国債発行は、「信用創造」という日銀が有する「貨幣を生み出す」機能を指します。信用創造とは、銀行が貸し出しを繰り返すことによって、銀行全体として、最初に受け入れた預金額以上の預金通貨をつくりだすことをいいます。創造される信用貨幣の量は日銀の準備預金制度に依存していますので、過度な発行は控えられるのは当然です。ちなみに準備預金制度とは、市中銀行の預金の一定割合の額を中央銀行に預け入れさせる制度のことです。この預金は当座預金となり利息はつきません。
ところでWikipediaによりますと、21世紀に入ってからの各国の負債の増加を見ると2001年=100とし、2015年時点のデータでは、英国が429、米国338、日本は163とG7の中で最も増加率が低いのです。G7の中で最も借金を増やしていないのです。この状態が望ましいかどうかです。この負債とは国債のことです。国債は、需要と供給を促進するための投資です。日本は投資をしない「ケチケチ国家」ともいえるのです。
今、日本は震災や天災に備えなければならない状態です。国土強靱化が叫ばれています。そのためには、膨大な資金が必要です。震災や天災が起きてからの復興は大変なことです。もっと事前に強靱化を進めておけば被害を少なくすることができるのです。防災庁の設置ということが新内閣で言われています。そのためには、大量の資金が必要となります。もしかしたら、防災国債などが生まれるかもしれません。防災税などといった増税は論外です。
「ケチケチ国家」を進めるのが、プライマリー・バランス(PB)の黒字化と債務残高対GDP比の安定的引き下げを掲げてきた財務省だといわれています。PBとは、財務省の見解によれば、「社会保障や公共事業をはじめ様々な行政サービスを提供するための経費を、税収等で賄えているかどうかを示す指標」といわれます。財務省は、税収でさまざまな政策的な経費を賄う財政健全化目標を掲げています。受益と負担のバランスを保つというのがプライマリー・バランスといわれます。つまり、消費増税などによって黒字化するという方針であり、国債という赤字をだす政策には反対しているのです。いざというときに、国債の信認が下がると償還が困難になりデフォルトになり、国家の信用を落とすことになりかねないと財務省は懸念するのです。
G7の国債の5年以内のデフォルト確率を比較する興味あるデータがあります。それによりますと日本は0.33%とG7諸国中ドイツに次いで2番目に低いのに対し、英国は0.70%と日本の2倍以上の水準に達しています。このようにデフォルト確率が低いのは、日本国債に対する信認が高いからだというのが定説となっています。
税収でさまざまな政策的な経費を賄う財政健全化目標というのは、「ガラパゴス化した日本の財政政策」だと揶揄されています。これが財政金融政策や経済の正常化を進める上での支障となっているといわれる所以です。経済活動が活性化しない状況が続くのは、プライマリー・バランスを堅持しようとする政府の施策にあるようです。
(投稿日時 2024年10月5日) 成田 滋