英語のあれこれ その10 身近なラテン語

若いときは関心がさしてなかった語学であるが、齢を重ねるとともに古典であるラテン語やギリシャ語に関心が向くのは不思議だと思っている。英語の語源を調べると、どうしてもこの二つの偉大な言語に行き着く。ブログを書くために、ラテン語辞典とギリシャ語辞典は毎日通う図書館で重宝している。

ラテン語の単語が我々の身近なところで使われている。アドリブは”ad lib”、学術はars、ソロバンはabacus、接近はaccessio、順応は accommodatio、腹はaddomen、告訴はaccusatioといった具合だ。”Propagare”はプロパガンダ、”taxare”は量るとか税金、”congregatio”は組織とか会衆、”mercator”は商人。”Panacea”は万能薬、こうしたラテン語から英語が派生してきた。

オリオン(0rion)、アンドロメダ(Andromeda)、カシオペア(Cassiopeia)など88の星座の名称もラテン語だ。Wikipediaによれば1919年創立の国際天文学連合(International Astronomical Union: IAU)がラテン語表記と決めたからだ。ラテン語はいわば国際的な公用語であることを示す。IAUは国際科学会議(ICSU)の下部組織として惑星、小惑星、恒星などの命名権を有するという。

ラテン語で愛はamor、カサエルはCaesar、珊瑚礁はcorallium、三角州はdelta、家族はfamilia、女性はfemina、ローマ神であり太陽系惑星の木星はJupiter、正義はjustitia、月はlunar、海はmare、大洋はoceanus、象徴はsymbolus、女神はVenus, ばい菌はvirusなどから、ラテン語から英語となったことがよくわかる。

誠に「学術は果てしないが、生涯ははかない。」
Ars longa, vita brevis.

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英語のあれこれ その9 ラテン語と英語

ラテン語(Latin)と英語との関係である。ヨーロッパの教会では長い間ラテン語で礼拝式が執り行われていた。なぜならラテン語はもともとイタリアで生まれ、ローマ帝国の公用語として使われてきた経緯がある。今もバチカン市国(Vatican)の公用語はラテン語である。教会でラテン語が使われてきたことは納得できる。

学問の中心はヨーロッパであったが故に、今もラテン語が活用されている。例えば、生物の学名がそうだ。また教会音楽でもラテン語の歌詞で歌われている。”Agnus Dei”は神の子羊、アニュスデイと発音する。”Magnificat”(主を崇め)はマニィフィカトと発音。綴りにある”g”は発音しないのがラテン語である。”Sanctus”(聖なるかな)”Gloria Patri”(小栄唱)というラテン語も思い出される。

学問はラテン語そのものともいえる。例えば、大学などのエンブレム(emblem)にラテン語が印字されていることだ。ハーヴァード大学(Harvard)の紋章には”VERITAS”とある。「真理」とか「真実」という意味である。筆者の母校ウィスコンシン大学の紋章には”NUMEN LUMEN”とある。”God our Light”。「神こそ我が光」という意味である。学問や知性の源泉はラテン語にありといったところか。非常に敬意を払っていることを示す。

我々が日常接するラテン語であるが、”aqua” は水、”de facto” は事実上の、”pax”は平和、”pater”は父親、”patronus”は後見人、ハイブリット車の名称”prius”は先駆け、等々ラテン語があちこちにある。

“A priori”は先験的という意味で使われるラテン語。例えば、時間とか空間はあらゆる経験的認識に先立って認識されること、演繹的とされる。他方、”A posteriori”は後天的とか経験的、あるいは帰納的という科学哲学の大事な考え方である。演繹と帰納の話題は少々ややこしい。この稿はひとまずこの辺で終わりとする。
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英語のあれこれ その8 Fighting Irish–Notre Dame

インディアナ州(Indiana)のサウスベンド(South Bend)にノートルデイム大学”University of Notre Dame”がある。名前からわかるようにカトリック系の大学である。そこのスポーツチームには”Fighting Irish”というニックネームがついている。

アメリでは、どの大学にもニックネームがついている。Fighting Irishとは少々過激な印象を受けるが、ノートルデイム大学の創立の歴史をみればなるほどと首肯したくなる。

南北戦争(Civil War)のとき、北軍(Union)に”Irish Brigade”という3,000名の兵士からなる旅団があった。この戦争の天王山といわれたゲティスバーグの戦い(Battle of Gettysburg)では、Irish Brigadeの500名が生き残ったという激戦であった。この旅団に従軍していた司祭がWilliam Corbyである。戦争の終結後、彼は第三代の大学総長としてその発展に貢献した。

Fighting Irishとは、アイリッシュの気概を示す。それは、”never-say-die fighting spirit”というのである。その精神とは勇気を示す”grit”、決断力をあらわる”determination”、そして辛抱強さを意味する”tenacity”。アイリッシュの心意気ということのようである。

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英語あれこれ その7 ケルトとBoston Celtics

ボストンにはボストン・セルティックス”Boston Celtics”というNBAに所属するプロバスケットチームがある。「ボストンのケルト人」というわけである。アイリッシュが沢山住むボストン。そこでCelticsと名付けられた。

1980年代にセルティックスには、ラリー・バード(Larry Bird)という名選手がいた。黒人選手が圧倒的に多い中で、「白人」のバードは人気が非常に高かった。「白人の希望」という嬉しくない称号ももらった。バードは極めて正確なシュートをうつ名人で、セルティックスをNBAのチャンピオンに三度導いた。まさに黄金時代を築くのに貢献した。

植民地時代のアイリッシュのイギリスに対する抵抗は、ボストン市内の各所にある旧所名跡に残る。例えばボストン茶会事件(Boston Tea Party)である。当時、植民地であったNew Englandの中心、ボストンは紅茶や綿花の本国へ送る港であった。抑圧されていたアイリッシュは独立のために立ち上がる。バンカーヒルの戦い(Bankerhill) 、レキシントン・コンコードの戦い(Lexington & Concord)などを経てイギリスから独立を勝ち得たのは1789年である。

独立戦争はセルティックス—ケルト人の精神が反映されているとも考えられる。被征服という恥辱や汚名を雪ぐ戦いでもあった。

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英語あれこれ その6 ケルト語系と英語

なぜ筆者がケルト語(Celtic)に関心があるかである。それには三つの理由がある。第一は1961年1月にJ. F. ケネディ(J.F. Kennedy)が大統領になったこと、第二は長男家族がボストンにいること、第三は司馬遼太郎の「愛蘭土紀行」を読んだことである。司馬の作品から時代考証の方法と文章の修辞法も学んだ。

J. F. ケネディの家系はアイリッシュ(Irish)である。アイリッシュは、イギリスで被征服民とみなされ、カトリック教徒であるために忌避感を持たれてきた。そのためアメリカでも偏見と差別に苦しめられた。しかし、ケネディ、そしてロナルド・レーガンが大統領となりその社会的認知度は確立した。ケネディは1963年11月22日に暗殺されたが、今も最も人気のある大統領の一人として記憶されている。

長男の家族はボストン市内で長く暮らした。長男はハーヴァード大学(Harvard University)でポスドクとして研究し、嫁はダウンタウンの小学校でスパニッシュの子どもたちを教えてきた。今はボストンの郊外に住んでいる。ボストンでたまたまセントパトリックデー(St. Patrick’s Day)に遭遇したことがある。通りがかりの人々は皆、緑色のものを身につけて祝っていた。バグパイプ(bagpipe)のもの悲しい音色もいい。奏者の服装もあでやかであった。

「愛蘭土紀行」にはアイルランド語や文化のことが書かれている。司馬は、小泉八雲の生涯や著作からアイリッシュに関心をいだいたことがうかがわれる。アイルランド語はゲール語(Gaelic)と呼ばれている。もともとアイリッシュの固有の言語であったケルト語である。アイリッシュはケルト人でもある。

イギリスによって被支配民となりアイルランド島全土が植民地化されてからは英語にとって代わられた。だが、今はアイルランドの公用語は英語とともにアイルランド語となっている。

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英語あれこれ その5 do、get、give、have、make、take

中学校や高校で習う単語のほとんどがゲルマン語系(German)の英語だそうだ。ゲルマン語系とは、黒海からヨーロッパ北部で使われた言語集団をゲルマン語派と言うそうである。ゲルマン語系の言語とは、現在の英語、ドイツ語(German)、オランダ語(Dutch)、北欧(Scandinavian)での言語のことである。オランダ語やスエーデン語(Swedish)、ノールウエイ語(Norwegian)は知らないが、単語を目にすると英語になったのが沢山あることに気がつく。発音は違うが、単語の綴りから意味は容易に理解できる。

現在使われる英語は、時代によって古英語ーOld English、中英語ーMiddle English、そして近代語ーModern Englishと呼ばれてきた。基本の動詞であるdo、get、give、have、make、takeなどはOld Englishそのものである。従ってその様々な使い方には伝統があり、それを知って使い分けるとゲルマン語圏内では意思が伝わる。日常会話だけでなくメールを書くときもそうだ。上記のゲルマン語系の動詞使いこなせば英語らしいものとなる。特にgetの使い方は大事だ。

新聞や雑誌などを読みこなし、リスニングをかなり正確に聞き分けるには、ゲルマン語系の動詞の基本構文を意識することを勧める。例のS+V+C+Oなどである。ラテン語系といわれるフランス語・イタリア語・スペイン語などに由来する英語の語彙を構文の中で使うと良い文章となる。ただし、ラテン語系の単語の綴りは結構ややこしい。手書きできればもっと良い。それと修辞法を学ぶことだ。

英文抄録作成法という拙稿を1999年に掲載したことがある。修辞法を解説している。参考になれば幸いである。
http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/naritas/abstract-e/abstract.htm

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英語のあれこれ その4 民主主義とギリシャ語

我々に馴染みの英語を取り上げる。すべてギリシャ語から派生したものである。それは「crat」という接尾辞がつく単語である。どれも国や為政の骨格を示すようなものとなっていて、好奇心をそそられる。

民主主義は”democracy”。この単語を分解すると、”demo”は民衆とか大衆という意味。”crat”は支持者とか統治者という意味である。従って、”democrat”は民主主義者ということになる。”cracy”は「〜階級社会、統治」ということである。このように”crat”の部分を”cracy”に置き換えると、「〜主義、〜政治」という単語ができるというわけである。ちなみに、アメリカの議会は民主党と共和党の二大政党からなる。”Democrat”とは民主党、民主党員というわけだ。

昔、ギリシャでは上流階級や貴族は”aristocrat”と呼ばれた。この単語を分解すると”aristo”は最も上のという意味であり、その語尾に”crat”がつくと最高位の人々となるわけである。アリストテレス(Aristotle)の業績は、やがて啓蒙主義やルネッサンスへ継承されたといわれる。その名前にふさわしい哲学者であった。

君主制というのがある。語源は古代ギリシャ語である。かつてのロシア帝国の皇帝とか大日本帝国の天皇のこと。これを”autocracy”という。”auto”とは自己の、己の、という意味である。従って”autocracy”は一人の者に権力が集中する制度、”autocrat”は独裁者に近い皇帝とか王となる。 “autocracy” は”dictatorship”, “totalitarianism”に極めて近い。

官僚主義もギリシャ語からきている。”bureau”は役所の部局のこと。そこで立案するのが”bureaucrat”である官僚だ。人民のニーズに対応する政策を考えるのではなく、特権的な人間の判断が幅をきかす制度が”bureaucracy”ある。

“Technology”も大事な単語だ。技術は”techno” 技術の専門家とか官僚のことはテクノクラト”technocrat”という。

能力主義という英語は “meritcracy”。接頭部分の”merito”とは美点とか、成果ということである。知的エリートのことをを”meritocrat” という。財産や階級の特権を振り回すのではなく、己の才能でのし上がった者だ。成果や働きに応じた報酬を”merit pay”という。

終わりに、偽善とか偽善主義を意味する”hypocrisy” がある。偽善者は”hypocrat” というように使われる。”hypo”とは低いとか下位の、といった接頭辞である。”hypothesis”は検証されるべき仮説や仮定ということになる。
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英語のあれこれ その3 サイコとソマト

精神身体医学の歴史は長いようだ。心と体のつながりは昔からいわれてきた。たとえば、中世はイスラム圏では、ペルシャの精神科医師が病の原因と治療には心と体が深く繋がっていることを指摘している。心や気のありようが身体と関わることを知っていた。

昔から「気は心」とか「病は気から」などといわれる。気を病んでしまうことで病気になってしまうこと、科学的な根拠はわからない時代でも、人々は長い間の経験と知恵から心と体の関係を知っていた。

今回の話題は、「精神と身体」のことである。サイコとソマトと呼んでおく。繰り返すがサイコ(psycho)は精神、ソマト(somato)は身体である。World English Dictionaryによれば、psychoと同様にsomatoはギリシャ語の「soma」から生まれたとある。

「Psychosomatic」という肝要な単語がある。その説明には、「disese caused by mental stress」という記述があり、 病人の身体と心理に因果関係があると指摘している。精神的なストレスが最も病気を誘発しそうである。それを究明した学者の一人にオーストリア精神科医のジクムント・フロイド(Sigmund Freud) がいる。

フロイトは神経症(nervous disorders)、性的外傷論(sexual trauma)、自由連想法(free association) 、無意識(the unconscious)などの研究と実践により精神分析(psychoanalysis)を創始したことで知られる。フロイドのことはここではあまり触れない。サイコとソマトを通してギリシャ語が英語と深い関わりがあるということを説明したかった。
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英語のあれこれ その2 ロゴス(Logos)

英語のアルファベット(alphabet)はギリシャ語から生まれている。ギリシャ語の最初はアルファ(α-alpa)、ベータ(β-beta)と続き、最後がオメガ(Ω-omega)である。聖書の黙示録1:7に「わたしはアルファであり、オメガである」という有名な聖句がある。

英語の母体の一つが古代ギリシャ語である。ギリシャ語を語源とする単語には、 論理(logic)、 民主主義(democracy)、貴族(aristocrat)、科学技術(technology)などたくさんある。前回、心理学(psychology)に少し触れた。今回はギリシャ語の論理(logic)にまつわる英語である。

論理学はlogicと呼ばれる。「論理的に話したり書いたりする」ということは、説明や文脈や明確にし、結論に導くことである。思考の形式とか法則のことである。このように論理学は、人間の思考や表現などあらゆる分野において重要な役割を果たしているといえる。

さて、logicに関する単語である。Psychologyの語尾「logy」は英語の大事な接尾辞の一つである。「〜学」、「〜説」、「〜論」、「〜話」、「〜学」、「〜科学」などを意味する単語についている。「logy」のもともとは、ロゴス(Logos)である、Wikipediaによれば、古代ギリシア語では、概念、言葉、意味、論理、理由、理論、思想などとある。ちなみに、キリスト教では神のことば、歴史の始まりから終りまでを司るイエス・キリストを意味する。

少しややこしくはなるが、概念、言葉、論理などのことである。ロゴスは哲学の流れである論理と思弁を重んじることにより、「語られる力ある言葉」ということで理解されるのが一般的といわれる。
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英語のあれこれ その1 古代ギリシア語と英語

漢字の偏に関する熟語など勉強をしたきたので、これからは英語の勉強を始めることにする。身近な話題、自分の体験した英語との苦闘や発見などを取り上げる。だが、決して難しい内容とはならない。英語学のプロではないので、それを保証しておく。

英和辞典なしに小説や新聞を読むことができるためには、2万語の語彙が必要となるといわれる。そんなことは不可能に近い。筆者の経験から言えば、2,000語から3,000語を知っていれば、ほとんど意味はわかってくるのではないか、、単語の意味を理解するにはどうしても方略を駆使する必要もある。語源から辿るという方略である。

語源を知ることによって名詞と形容詞などの派生語の意味も理解でき、語彙が増える。「派生した単語の多い語源から学習することが効率的な英語の語彙習得に役立つ」とある学者がいっている。単語の語幹や接頭辞、接尾辞に注目するのである。

例えばである。このブログの多くの読者は心理学はどこかで学んできた。心理学は「Psychology」である。語源はギリシャ語の「Psyche」プシケーといわれる。英語読みでは「P」を発音せず、「サイコロジ」となる。ここが英語の不規則性という特徴である。古代ギリシア語で心・魂・霊などを意味する。派生語としてPsychologist, Psychiatric, Pseudo, Psychic, Psychogenic, Psychotic, Psychosis, Psycho-analysis, Psycho-therapyなどなど多岐にわたる。

面白いのは「Pseudo」という単語である。これは「にせの,まがいの」という意味である。心とか魂というのは、複雑でとらえようがない、というニュアンスもある。心理学というのもいろいろな人がいろいろな仮説をもとにして作った体系である。それ故、まがいものもあるのではないかと冷ややかに受けとめる必要がある。「Pseudo」は「スード」と発音する。

arithmioi Dictionary Definition of Psychology