IEPはどうなっているか その10 Santa Clara市学校区の教育心理的サービスに関する報告書 その2

前回はSanta Claraの一高校生に行った2度の検査結果の一部を記した。検査は継続的に実施することによって、生徒の発達状態を理解することができる。今回は、検査結果を分析した内容を紹介する。こうした文書は、保護者とか新たに加わる支援者への説明には大変役立つものである。

1. 認知
Aは,視覚知覚と極微細運動による非言語性認知テストであるLeiterを受けた。その結果であるが,Leiterの検査結果では精神年令の5才10か月,IQの42で前回と同様の結果であった。また,レベルIVでは全ての項目を通過した。レベルVでは3/4の項目を,レベルVIでは1/4の項目を通過した。しかし,レベルVIとVIIでは,全ての項目を通過しなかった。彼女は,自分の力で数字をマッチングさせ,言葉で分類し,基本的な操作をし,色,形,数字の組み合わせによるマッチングができる。

それに続くレベルの高い課題では,最初は正しく反応したが,項目の中間や終りの方では下位項目で誤反応を示した。Aは,まれに視覚的に注視することによる援助を求めていた。検査者が検査項目を素早く提示した場合,概ね良好な反応を示した。

2. 微細運動/知覚運動
Aは,鉛筆で線と幾何図形を模写する能力をテストする視知覚運動統合テストであるBeeryが実施された。彼女は,水平線に対する垂直線を模写することを除いて,垂直線と円の模写をした。Beeryの結果,3才2か月相当であった。Aは,震えたような線ではなく平らな線を書いた。自分の簡単なイニシャル”○”をかろうじて書ける。先の尖った,色付のフェルトペンを使うとより上手に書ける。

彼女は,小さなビーズをゆっくりではあるが正確に分類し,ゴム輪やペーパークリップを使ってカードや書類をファイリングできる。Macintoshコンピュータで,3〜6才のユーザーを対象とした教育的ゲームで上手に遊ぶことができる。彼女のキーボードには,1/4インチ大の適応シンボルが添付されていて,黒い印がついている。もっとも教師は,それがなくても彼女が十分に使えると考えている。

3. 粗大運動
Aは,大股で歩きうまく体をコントロールして移動し,長距離を歩いたり,たまにジョギングをする。指示されれば,大きな運動場用のボールを投げたり,ゆっくりトスされたボールを受けることができる。また,静止したボールを力強く的に向けて蹴ることができる。彼女は,2秒間片足立ちできる。筋力や忍耐力を強化する運動プログラムに参加していて,ユニバーサルマシンで重量上げをし,階段登り機を連続2分間行い,立ったり座ったりの動作を7回できる。

4. 自助行為
Aは,自分で上着をつけたり,背中用ザック,腰用ザック,小袋を扱うことができる。それらを持つことを楽しみながら,自信を持って取り扱えることができる。上着や腰用のザックを学校に忘れることや小袋を失ってしまうことがあるので,時々それらの物を忘れないようにするための催促が必要となる。

彼女は一人で食事と片付けができるが,朝食および昼食の後,口のまわりを清潔にする援助が必要です。Aは,着衣や着替えは一人でできますが,水着の場合のみ困難です。彼女は,Velcroのウォーキングシューズを一人で正しく装着できます。Aは,時々トイレのドアを開け放しで出ていくことを除けば,排泄と手洗いは自立しています。

5. 社会的/個人的
Aは,スタッフや生徒との関係では,楽しく過ごすことができる。何かを要求したり援助を求めたりしなければ,自分で何とかしようと徘徊する。目的の人を探し,そのことを適切な言葉で表現できる。Aは,自分ができる活動,特に興味の強いゲームでは,どんな生徒とでも一緒にゲームができ,皆とうまくやっていける。彼女は,2年前に比べ攻撃的な感情の爆発が少なくなり,自己を制御できるようになっている。元気なときは愉快な生徒である。

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IEPはどうなっているか その9 Santa Clara市学校区の教育心理的サービスに関する報告書 その1

カリフォルニア州のシリコンバレーにSanta Clara市学校区がある。学校数は24校。生徒数は15,300人。ヒスパニック生徒の割合は36%、高校卒業率は83%である。近くにはクーパーチーノ(Cupertino)、サニーベール(Sunnyvale)などの街がある。郡庁所在地はサンノゼ(San Jose)である。以前、この学校区の特別支援教育とIEPの内容を調査したことがある。その一部を報告したい。

この学校区には次のような専門家が常駐している。
・特別支援教育支援スタッフ
・プログラムスペシャリスト
・矯正体育スペシャリスト
・学校心理士
・言語治療士
・特別支援教育カウンセラ
・作業療法士
・行動分析士
・アシスティブテクノロジ判定者
・代替補助コミュに二ヶーションテクノロジスト
・ソーシャルワーカ

以下に紹介するのは、IEPの対象となった一人の高校生が法の定めによって3年毎に受けた検査結果である。各分野の専門性を有する職員による検査によって、詳しい発達状態が報告されている。それに基づき継続的な計画が作られ、それにそって指導の成果がどのように現れるかを伺い知ることができる。

学校に常駐する専門家は、学校心理士、言語治療士、矯正体育スペシャリストなどがいることも参考になる。この学校にはソーシャルワーカもいるが、この生徒には関わっていない。
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■生徒氏名: A. B.
生年月日: 1978年11月21日
歴年令: 17才
学校: Santa Clara高校
プログラム: ノンカテゴリカル (障がい別によらない)
教師: A. S.
報告日: 1995年11月27日
チームメンバー:    教師
学校心理士
言語治療士
矯正体育スペシャリスト

【問題に関する背景情報】
Aは現在Santa Clara高校でノンカテゴリカル・プログラムを受けていて,1週間に1回の割合で言語療法士と矯正体育スペシャリストから計画的な指導サービスを受けている。Santa Clara高校へ進学する前は,Busher中学校でノンカテゴリカルプログラムを受けていた。Aは,発達遅滞,てんかん性異常波,性染色体異常という診断を受けている。彼女の健康は良好で,学習活動における「聞え」と「見え」は良好と思われる。彼女は,母親とSanta Clara市内に住んでいる。

○実施されたテスト
実施者
Vineland適応行動尺度学級版: 学校心理士
Beery視知覚運動統合発達テスト: 学校心理士
Leiter国際動作性尺度: 学校心理士
保護者の面接,教師の観察: 保護者、教師
コミュニケーション発達テスト(SICD): 教師、学校心理士
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●Vineland適応行動尺度による評価:
コミュニケーション年令:4才4か月
聞き取り年令:3才11か月
表出年令:4才
書字年令:5才
日常生活スキル年令:4才6か月
パーソナル年令:4才6か月
家事対処年令:4才5か月
地域社会年令:4才5か月
社会性年令:4才9か月
対人交渉年令:5才3か月
遊戯・余暇年令:3才10か月
課題対処年令:3才7か月
Leiter精神年令:5才10か月
IQ:42

【観察と現在の評価】
Aは,周囲の環境や人に対して非常に過敏である。彼女は,教室ではコンピュータでの課題を楽しんでいることや行動原理に基づいた強化の随伴性が構造化されたものには対しては,積極的に反応していることが観察されている。

この評定は,記録の再調査,観察,面接、及び直接検査を実施し作成された。14歳のときのVinelandテストの結果は以下であった。

前回の評価:1992年11月
歴年令:14才
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コミュニケーション年令:3才5か月
聞き取り年令:2才6か月
表出年令:2才8か月
書字年令:5才11か月
日常生活スキル年令:4才4か月
パーソナル年令:3才5か月
家事対処年令:3才9か月
地域社会年令:5才3か月
社会性年令:4才2か月
対人交渉年令:3才4か月
遊戯・余暇年令:6才1か月
課題対処年令:3才11か月
運動スキル年令:4才7か月
粗大運動:5才9か月
微細運動:4才0か月

一人の生徒の発達経過を調べるためには、経年的な検査や観察が大切である。そのためには、人も時間もかかるがそうした体制を学校は用意する必要がある。IEPの作成と実施にはこうした検査結果を基にすることが規定されている。興味ある点である。

【注】
○Leiter国際動作性尺度(Leiter International Performance Scale)は知能検査の一種で、2歳から18歳までの知的発達を測定できる。認知、視覚、記憶、注意の4つの下位検査項目からなる。

○Vineland適応行動尺度(Vineland Adaptive Behavior Scales)は日本語版もあり、標準化されている。アメリカではよく使われている。

○Beery視知覚運動統合発達テスト(Beery Developmental Test of Visual-Motor Integration)は理学療法士や作業療法士がしばしば使うものである。

○コミュニケーション発達テスト(Sequenced Inventory of Communication Development)

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IEPはどうなっているか その8 プリンスウイリアム郡学校区でのIEP作成の過程(2)

本稿は、ヴァージニア州にプリンスウイリアム郡学校区におけるIEP作成の過程のその2である。この学校区は、首都ワシントンD.C.から車で2時間のところにある大きな学校区で、生徒の人種も多様な構成となっている。特別支援教育を受けるのは全生徒の11.3%となっている。これは全米平均より少し多いレベルである。

前回は、以下の3項目を記した。本稿はD以下である。
A. IEPカンファレンスを開始する前に(様式40-05)
B. 生徒の実態についての情報を整理すること(様式40-10)
C. 現在IEPを受ける有資格者であることを再確認すること
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D. 現在の学習能力レベルについてまとめる(様式40-20)
現在の学習能力レベルは、年度ごとの目標を設定するための基礎資料となる。報告書には、通常カリキュラムへの参加に関して生徒の障がいへの影響について詳述される。プリンスウイリアム郡において、通常カリキュラムには、学問的スキル、判断スキル、コミュニケーションスキル、テクノロジー、ソシアルスキルと行動スキルが含まれている。就学前の子どもに関しては、障がいが活動参加にどの程度影響を及ぼすのかについて報告書に記載される。

学習能力レベルの冒頭においては、学習環境の中の子どもについて記載される。長所は何であるのか。学習スタイルはどのようなスタイルであるのか。生徒は何ができるのか。子どもへの効果的なものは何か。子どもは社会的に自分自身をどのように捉えているのか。コミュニケーターとしては、学習者としては、などである。要するに、生徒の状態に合わせて支援者を提供する。

障がい児の中には、行動への介入、方略、支援を必要としている行動問題を持つ生徒もいる。もし、これらの行動問題が教育上不利になるとしたら、IEPカンファレンスによって考慮されるかもしれない。複数の資料情報から行動の問題は記録される。記録には、行動のチェックリスト、子どもの研究記録、教師の教育レポート、逸話の記録、保護者とのコンタクト日誌、訓練記録、などが含まれる。教育に関する現在のレベルは以下のことが含まれる。

1) 生徒の現在の行動の記録。
2) その行動の学習への影響。年度ごとの目標が改正されるとき、行動の目標は、生徒のために記録される。

E. 目標についてまとめる(様式40-25)
現在のIEPカンファレンスに先立って目標を準備し草稿することが進められる。IEPは、草稿が最終段階に入ったとき、保護者の受領とサインを必要としている。

指導領域:
IEPで話し合われる指導領域を決定するために最も最新の有資格者会議の要約を参照する。これらの領域は、「IEPカンファレンスで話し合われる指導領域」のページに記載されている。担当者は現在の学習能力レベルの各領域における生徒の機能を詳述する。例えば、ある生徒に関する現在の学習レベルでは、行動問題に取り組むための目標に対するニーズを示す。

年度目標:
年度目標とは、生徒が1年間に達成できるであろうと期待されることを記したものである。教育実践に関する現在のレベルの中に書かれた報告書と年度ごとの目標については直接リンクしなければならない。年度目標には、状況、行動、目標内容、評価基準の構成要素を含む。

・状況
目標段階においては、生徒が十全に能力を発揮できると考えられる環境について記述する。つまり、直接的指導、小グループによる指導、会話をする機会を提供すること、口頭によるプロンプトなどといったことである。
・行動
観察できる行動を明細に記述すること、そして測定可能な動作(書き、読み、計算、反応、理解への示し方など)について正確に記述する。
・目標内容
教え方、評価の際の主な問題への対応の仕方と何を学習するのかについて示されている。例えば、4年生程度の数学的概念、8歳段階の範囲、生徒の能力に匹敵したレベル範囲、適切な関わりについて。
・基準:
目標の測定基準を確立すること。例えば、80%、Cあるいはそれ以上の段階

1. 最新の報告書においては、指導の領域ごとに進捗報告が記載されるべきである。
2. どちらがそれぞれ関連したサービスとして適しているかどうか少なくとも最終目標と短期目標に関して検討すべきである。関係する専門家の人たちは、関連したサービス支援を提供するために協力しなければならない。そして生徒の教育プログラムの中に組み込まなければならない。

短期目標(IEP基準):
「IEP基準」「短期目標」という語は、互換して用いることができる。短期目標(IEP基準)は、状況、行動、目標内容の要素を含んでいる。短期目標は、生徒の現在の教育レベルと子どものために確立されている年度目標との間のステップである。基準は、年度目標に関する主な内容の分析を基にして進められる。そして目標達成への測定材料として非常に役立つ。

IEP目標は、日々のクラス目標とは違う。IEP目標は、年度ごとの目標を達成するために決定された一般的な基準である。クラス内における指導計画は、日、週、月をベイスとして行われるより一定の成果をねらいとして立てられる。そして一般的には、その詳細について述べることはIEPの中では要求されていない。つまり、目標を達成するための一定の方法、活動、教材について述べることは要求されていない。

(例)
・小グループによる指導を提供すること。生徒Samは、読みの前段階のスキルを身につけるだろう。
・口頭による読みを行うことによって、読解スキルを活用するようになるであろう。
・読みの課題を行うことによって、正確に質問に答えるようになるであろう。
・一つのストーリーを読むことによって、基礎的なできごとについて順を追って読むことができるようになるであろう。

評価:
・評価のためのスケジュール
評価スケジュールについてはIEP委員会によって決定され、そして目標を明確にするべきである。評価は、各セッションごと、週、9週間ごとに行うときに必要である。このスケジュールについては、保護者への報告を含んでいない。

・手続き
手続きは、目標達成を測定するために記録された書類によって行われる。一つ以上の手続きを活用してもよい。一つの手続きコードが、様式40-25の下に示されている。支援者は各目標に関して手続き欄を活用し、手続きについて書くこと。

・判断基準
判断基準とは、目標への達成を測定するために標準を確立したものである。例えば、80%達成、Cあるいはそれ以上の段階、10試行中8試行達成などである。

年度ごとの目標結果:
このセクションは、新しいIEPを記載するときまとめられる。このとき、生徒が年度目標に到達した目標について報告書を記載すること。

習熟度レポート:
年度目標に関する、習熟度レポートは、障がい児への保護者に提供されなければならない。同時に、通常学級の生徒にも提供されなければならない。IEP作成において進行状況を報告するためのスケジュールを作成するとき、生徒を参加させ学校でチェックする。

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IEPはどうなっているか その7 プリンスウイリアム郡学校区  IEP作成の過程(1)

ヴァージニア州にプリンスウイリアム郡学校区(Prince William County Public School)がある。生徒数は85,055人、学校数は93校である。生徒数では、ヴァージニア州で二番目に大きな学校区である。特別支援教育を受ける生徒の割合は11.3%、貧困世帯からの生徒は 35.2%となっている。生徒一人あたりの教育費は平均10,334ドル(110万円)となっている。国際バカロレア機構(International Baccalaureate)で認定を受けているのは全79学校のうち、3小学校、3中学校、2高校となっている。

この学校区でIEPの作成と実施状況を調査した。我が国でのIEPの現状を考えるのに大いに参考になるので紹介する。

障がいのある子どもたちと青年のために、無償で適切な公教育を保障することを目的とした主な文書が、個別指導計画:IEP(以下IEPと略す)である。プリンスウイリアム郡学校区ではIEPの作成にいたる詳細な手続きが決められ、それに沿った各種の様式がある。IEPカンファレンスを開始する前に教育委員会がしなければならないことがある。それを記述しているのは、「様式40-05」と呼ばれるものだ。保護者が出席する機会を保障するために、早い時期に電話やメール、その他の方法によって呼びかけることが規定されている。適正と考えられるサービス提供者とその他のスタッフメンバーを参加させること、そのために、保護者、スタッフへの連絡期間として3日から5日間が適当とされている。その手続きの一部を紹介する。

A. IEPカンファレンスを開始する前に(様式40-05)
1. 様式40-05を送付するとき、障がい児教育における保護者の権利についての複写を添付する。
2. もし、生徒が18歳あるいはそれ以上の年齢である場合、保護者が持っている全障がい児教育法でうたわれる
権利は生徒に移される。教育委員会のスタッフは、IEPプロセスにおける欠くことのできない部分として、保護者に参加してもらうことを念頭におく。
3. 移行目標をIEPに記載するとき、IEPカンファレンスに生徒を呼ばなければならない。
4. 以下に記されている人は、IEPカンファレンスに参加する必要がある。
・計画作りをまとめる人(管理者)
・障がい児教育担当教師
・生徒を担当している通常学級担任一人(もし通常学級に生徒が参加している場合)
・カリキュラムに精通している通常学級の教員一人(もしIEPが実施されている期間中にその生徒が普通教育へ参加する可能性がある場合)
5. 以下の人は、予告期間中にIEPカンファレンス に参加しなければならない。
・保護者
・生徒(もしIEP実施期間中に14歳あるいはそれ以上の年齢であれば)
・関係のあるサービス提供者
・移行サービスの規定の中に記されている代理人代表者
6. 基礎となる学校以外の学校に通学する場合、措置選択に関するカンファレンスを行う前に適当な障がい児教育スーパーバイザーがIEPカンファレンス に出席する場合、彼らは、IEP委員会の委員長を務めることになる。もしプリンスウイリアム郡内におけるパブリックデイプログラムへの措置が、一つの考慮事項となるのであれば、その手続きについては、注意事項の691,02-7に示されている。
7. プリンスウイリアム郡の学校以外で措置される場合、障がい児教育のスーパーバイザーは、カンファレンスに出席しなければならない。そしてIEP委員会の委員長として務めることもある。もしそのような措置がカンファレンスで持ち上がったならば、スーパーバイザーが出席するまでカンファレンスを延期する必要がある。

B. 生徒の実態についての情報を整理すること(様式40-10)
生徒:学校の記録用紙に生徒の氏名を記載すること。もし、その生徒が他の名前で認められているのであれば、それを挿入すること。
親学校:もし障がい児教育をおこなっていないのであれば、生徒が通学する学校について検討する
学年:IEPを適用する生徒の学年を示すこと。

C. 現在IEPを受ける有資格者であることを再確認すること
もし、1998年7月1日以前にIEPの効果を見直すのであれば、1997年〜1998年のIEPを見直し、目標ページに目標の進行状況を示さねばならない。

IEP目標の進行状況は、「手続き」欄に記載されているデータを使って「評価」欄にリストされている評価によって記録されなければならない。一般的には、結果は「80%達成」、「95%達成」、「目標まで習得していない」などという表現で記述される。「進歩している」、「現状維持」といった用語によって目標結果を示すことは許されない。

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IEPはどうなっているか その6 e-iepの機能

子どもの障がいの状態や程度は一人ひとり異なる。そのため特別支援教育の現場では複数の人によって観察されたり検査されたりして、子どもの発達課題を探ることになる。そのためにe-iepにはいろいろな機能を実装して子どものIEP作りを支援している。その特徴的な機能を以下に紹介する。

■チェックリスト
子どもの発達の実態を把握するための検査項目である。本チームが開発したチェックリストは小学生から中高校生の二種類がある。加えて文部科学省が作成した発達支援のチェック項目を標準装備している。項目別にグラフィカルに表示されるので観察結果は解りやすい。校内委員会や保護者への説明にも効果的である。

チェックリスト項目をカスタマイズすることができるので、学校毎のニーズに細かく対応することができるようになっている。設問に答えるだけで点数化されガイドラインと照らし合わせることで、支援の必要性をかなりの程度で客観的に確認することができる。

■願い〜目標
支援には一貫性が必要なことはもちろんである。そのためe-iepでは願い→長期目標→短期目標→手だてが連携する様に入力を促す機能がある。時に、この連携がブレる事がある。そのために、e-iepは願いから目標、そして手だてを連動させるようにしている。

■コミニュケーション
e-iepは複数の教師や専門家、そして保護者とで子どもを支援することを基本としている。そのために豊富な情報の共有機能やコミニュケーション支援機能で支援者と保護者をつなぐことができるように設計されている。

○連絡帳
保護者と支援者の会話がとても重要なことはいうまでもない。学校や家庭訪問で直接対話することはもちろんでだが、時や場所の制約を受けにくいメールによるコミュニケーションも活用できる。e-iepの連絡帳機能は保護者の携帯電話からe-iepに登録している担任や特別支援コーディネーターにメッセージを送る事ができる。担任が不在の時でも連絡が停滞しないようになっている。

連絡帳機能による通信は全てe-iepサーバー上に記録される。保護者の携帯電話に情報が残らない。携帯を万一の紛失時にも情報の漏洩はない。またe-iepサーバーは保護者の携帯電話の製造番号を自動的に記録、「ID」+「パスワード」+「製造番号」の三つで認証する。従って、他の携帯電話からアクセスをすることはできない。

○メモ
普段の子どものエピソードから打ち合わせの記録といった文字情報はもちろん、画像や動画も保存が可能である。一つひとつのメモにコメントを残せるので、教員同士の連絡や伝達にも活用が可能となっている。過去にあった事柄を記録することで、担任交代時の引き継ぎが容易になる。

○ケースカンファレンス(校内会議支援)
校内委員会、ケース会議といった特別支援に関する打ち合わせを支援する機能を有する。
・会議招集:メンバーに会議日時を伝え参加の可否を確認する。
・書類共有:会議資料の事前配布を行う事ができる。参加者が各自で用意することで無駄な印刷コストを削減できる。
・議事録:会議の結果を登録する。当日参加できなかったメンバーも情報を共有できる。

○合意
e-iepでは完成したIEPを「担任」、「支援に関わる教員」、「特別支援コーディネーター」、「管理職」の間で電子決済を行う。この行為により、「個別の指導計画」は学校として正式に承認されたものになる。e-iepではこれを「合意」と呼んでいる。一度承認されたIEPは支援者が勝手に変更することはできない。

■分析ツール
合意された計画は指導に移される。さらに指導されることによってどのような効果があったかを測る必要がある。e-iepは「応用行動分析」の手法を取り入れた分析ツールを標準で装備している。生徒の様子や設定した手だてを自動的に転記し、指導前と指導後の問題行動の回数を比較、効果の検証をすることができる。検証が終わった「手だて」は達成、未達成が判定されe-iepの情報が更新される。

このような指導計画を検証し分析する機能は、恐らくIEP作成ツールとしては世界最初の機能である。これまで調査したツールにはこのような分析機能は装備されていない。

■通知表機能
通知表機能では従来の学校毎の定型的な通知表フォームに加えて、指導計画、指導と分析結果などを総合して附表として自動的に転記さる。それを編集して出力され保護者に伝えることができるインターフェイス機能を有している。指導の成果を保護者に伝えることは支援者の責任であるので、この通知表機能はなくてはならないものである。

■引き継ぎ
子どもの学年進行によって、新しい計画を作る必要があるときは、前学期作成した個別の指導計画をひな形にして最小限の労力で計画を作ることができるようになっている。

「保護者参加の個別の指導計画づくり」というコンセプトはe-eipの随所にみられる。支援者の知恵を集め、それを蓄積することでより質の高い教育の実現することがe-eipの狙いである。

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IEPはどうなっているか その5 「e-iepと名付ける」

「総合的な校務円滑システムの構築による特別支援教育の情報化」という課題の主たる作業は、そのツールを設計し開発することだった。そのために、特にヴァージニア州(Virginia)やマサチューセッツ州(Massachusetts)、英国のバーミンガム市(Birmingham)に調査団を派遣し、市販の個別の指導計画作りシステムや学校区が独自に作成しているシステムを調べた。調査方法は、インタビュが中心で実際に運用しているシステムを観察する機会も得た。ヴァージニア州のフェアファックス学校区(Fairfax County Public Schools)ではシステム利用の教師研修にも参加しハンズオンを経験できた。

アメリカの学校は早くから校内に端末が敷かれ、それがサーバーに接続されて校務情報が共有化されている。大きな学校区は自分たちのシステムを管理し、小さな学校区は市販のシステムやサーバーを使い、学校区にそったいわゆるローカライズされたシステムを利用しているこが判明した。そこで本研究でのシステム名を「e-iep」と名付けた。

個別の指導計画(IEP)は、多くの情報を基にして関係者による共同作業である。時間のかかる作業である。おいそれと簡単に作られるものとは違う。通常、IEPは次のような手順を経て作られる。

1) 子どもの成育に関する資料、保護者を含めた関係者からの情報、診断結果などを収集する。
2) その時の発達状態を行動観察、面接、検査などで把握する。
3) 保護者の新しい期待や願いを聴取する。この願いは、行動のチェックリストなどで現れた生徒の落ち込んでいる領域や改善すべき行動などである。保護者とじっくり話し合う。ここでIEPが作成されることが決められる。
4) ケースカンファレンス(会議)などでの協議を踏まえて、指定された者が中心になって計画案を作る。長期や短期目標を明確に記述する。指導状の具体的な手だても記述する。さらに指導に関わる者を特定する。
5) それを保護者に説明し同意をとる。
6) コーディネーターなどのケース責任者や管理職から計画案の同意を受ける。
7) 計画に基づいて指導を展開し、授業毎、週毎、月毎、行事毎の特筆すべきことを記録し評価に生かす。
8) 指導の成果を計画の目標に照らしながら定期的に評価する。それを保護者に説明する。
9) 評価に基づき申し送り事項を明確にし次の指導に活かす。

IEPというものは、繰り返すが短時間で担任が一人で作れるものではない。複数の教師や特別支援教育コーディネーター、福祉関係者や保護者と緊密な連絡を取り合いながら作り上げるものだ。e-iepは、以上のような作業をする機能を備え、デジタル化できるようになっている。実態把握から保護者や教師の願い、達成可能な目標づくりやなど必要な項目が全て用意されているので論理的で解りやすい指導計画を作成できる。それだけに、システム上のIEP作成は、ケースカンファレンスと同様に操作手順に熟知していない難しい。

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IEPはどうなっているか その4 「課題がなぜ採択されたか」

文部科学省の「先導的教育情報化推進プログラム」になぜ課題が採択されたかを考えると少々感慨深いものがある。応募にあたって大事なことは、なによりも特別支援教育にも学校にも保護者にとっても、弾けるような企画を考えることだった。ヒアリング毎に、綜合的な校務支援システムが特別支援教育の現状に即して、いかに大切なものかを倦まず、そして弛まず説明した。特別支援教育の分野で課題を提出したのが我々の一件だけだったことも幸いした。

2007年度から始動した特別支援教育では、個別の生徒の教育指針となるIEPの策定と運用が期待された。そのために、複数の関係者や関係機関がその作成や実施等の過程でさまざまな情報を共有する必要があるということである。

乳幼児期において福祉や医療機関、学齢期では保護者、特別支援学校や学級、進路指導では就労支援機関の連携が重要となってくる。障がいや発達に関する診断情報、教育相談情報、保護者が寄せる家庭での成長記録情報が綜合されて、個々の児童生徒に相応しい教育的支援を行うことができる。

このように今や特別支援教育は、早期の障がいの発見から就労に及ぶ校務情報の一元化と継承性が課題となっており、そこにICTの果たす役割が大いに期待されている。本研究がねらうネットワーク上での個別の教育計画策定と運用を中心とする校務円滑システムの構築と検証は欠かせない課題であると確信していた。

このような特別支援教育の展望のなかで、本課題は採択された。取り組みの方向が文科省の方針に沿うこと、特別支援教育の現状と課題を強調したことが役人の琴線に触れたからだと信じている。

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IEPはどうなっているか その3 「先導的教育情報化推進プログラム」

2007年に文部科学省の「先導的教育情報化推進プログラム」に「総合的な校務円滑システムの構築による特別支援教育の情報化」とい研究課題名で提案した。何度も文科省に呼び出されて、企画内容についてヒアリングを受けた。大型の研究費だったので審査は極めて厳しいものだった。

この研究を推進しようとする母体は、文科省の初等中等教育局内にある産業教育・情報教育担当情報推進係であった。この係は、学校における様々な業務、特に校務に関連する生徒情報を集積し、それを活用するための広域的なシステム作りを推奨し、校内はもちろん学校間で活用することを意図していた。特別支援教育課は、先導的な教育情報網の構築による生徒情報の有機的な活用という視点がなかった。

この研究課題が採択されることになった。採択された理由は3つある。第1は特別支援教育が上げ潮にあったことだ。相談から診断、指導にいたる過程で横断的な専門家がかわり、情報の共有と活用がもとめられるからである。第2の理由は、そうした過程における情報の共有と活用は、ネットワークの構築が求められることである。それは、学校内に留まらず学校外の専門家や保護者をつなぐ必要があったのである。第3の理由は、学校内がネットワーク化され、端末が設置されて校務の効率化や情報活用の機運が高まったことである。

情報化社会といっても我が国の学校はネットワークの利用に適していないことを知ったのはその後である。学校のネットワークというのはイントラネットのことであった。子どもの教育、医療、福祉などの関係機関の間での情報の共有という視点が全くないという現実に直面した。それを思い知ったのが、IEPをはじめとるする各種の校務情報を共有することを意図したツール開発過程であった。

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IEPはどうなっているか その2 特別支援教育コーディネータなるもの

「学校の公務として位置づけ、すべての小中学校又は特別支援学校に置いて、関係機関との連携協力の体制整備を図る」という趣旨で置かれたのが特別支援教育コーディネータ(以下コーディネータと略す)である。

誰がIEPの作成に関わるかである。我が国の学校には教師の他、養護教諭、栄養士がいる。言語治療士、ソーシャルワーカ、理学療法士、学校心理士は常駐しない。とどのつまり、教師がIEPの原案を作ることになる。他に誰も一人の生徒を知るものがいないからだ。コーディネータは黙って印を押すことになる。

今や6人に一人の生徒は貧困家庭で生活する時代だ。貧困は生活のリズム、栄養、保護者の養育責任、生徒の自尊心など心身に影響を与える。栄養士やソーシャルワーカの果たす役割は大きいのだが、彼らがIEPの作成に関わることはない。多くの場合、学級担任が一人で作文する。時にコーディネータが作成に立ち会うこともあるが、コーディネータは、自分も担任学級を持つ。コーディネータは兼任であったりだから、IEP作成に傾注することは極めて難しい。

IEP作りにおいては、2段階の過程を踏むのが原則だ。まず、担任やコーディネータから、IEPによる指導がふさわしいと上がってくる生徒を特定する作業である。発達相談の資料や保護者の要望、担任教師からの観察資料を基にしてIEP作りが必要かが話し合われる。もし、必要でないとされると、当面は経過観察となる。

次に、IEPが適当とされる生徒はIEPの有資格者となる。そしてIEPカンファレンスが開かれ、作成から指導に至るタイムラインが作られ、実際の個別の指導は数週間後となる。こうした作成過程のマネージメントは一体誰がするのかは学校によって異なる。校内の分掌体制では、コーディネータを誰がするのか、学年主任がするのか、、、コーディネータが腰掛け仕事となり、事なかれ主義になっては困る。

「担当する複数の教師、職員、保護者、外部の専門家が連携し協力しながら、子どもの教育ニーズに応じて適切な教育を準備する」という趣旨は、全くの作文である。それを知る苦い経験をしたプロジェクトを紹介する。

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IEPはどうなっているか その1 「学校でもIEPを作っている」

今や個別の指導計画(IEP)というフレーズは、すっかり定着した。「我々の学校でもIEPを作っている」という声は聞く。それはそれでよいとして、時に、近所の小学校に通う発達に課題のある子どもの保護者から「IEPってなんですか?担任からはIEPのことの説明はありませんが、、」という問いも投げかけられる。八王子市のことである。

こうした状況はさして驚くに当たらない。文部科学省のガイドラインには「小・中学校におけるLD・AD/HD・高機能自閉症の児童生徒についても、必要に応じて作成することが望まれる」とあるからだ。

「個別教育計画」、「個別の教育計画」、「個別の教育指導計画」、「個別支援計画」など呼び名はどうでよいとして、学校というところは、指導要領や通達にあるIEP作りを粛々と実施すれば、あとはなんのお咎めもない。「IEPが作られている」ということが大事なのだ。「IEPによる指導の成果」は問われない。

IEP作りに保護者は参加したか、IEP作りに誰が参加したか、作られたIEPは保護者の同意を得たか、IEPにそった教育によって生徒がどのように発達したか、IEPの目標はどの程度察せ意されたか、達成を判断する規準はなんであるか、指導の成果は保護者に説明されたか、こうした問いを学校は無視している。本来、「学校でもIEPを作っている」ということは以上のような要件を満たすことなのであるが。

「個別支援計画みたいな名前の書類は教師が勝手に書き、少なくとも私の勤務した知的障害特別支援学校にはあった。ただし絶対に保護者に見せてはならない、というしろものだった」。という教師の述懐もある。

この教師が嘆く似たりよったりな現状が今日のIEPを取り巻く状況にあることを言いたいのである。

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